細胞が与えられた環境での増殖に至適な数のリボソームを維持するには、「リボソームを作るために使われるリボソームの割合」を適切に保つ必要があると考えられる。本課題では、分裂酵母を用いて、増殖細胞におけるリボソーム数維持制御機構の解明を目的とし、「リボソームを作るために使われるリボソームの割合」を示す指標として、増殖細胞における全mRNAに対するリボソームタンパク質遺伝子のmRNAが占める割合(r-fraction)に注目して解析をすすめた。野生型の最小培地における増殖時に対して、富栄養培地では、r-fractionは、上昇した。また、最小培地においても、いくつかのリボソームタンパク質遺伝子(RPG)破壊株では、野生型に比べ、r-fractionの上昇が認められた。これらの条件下では、r-fractionの上昇だけでなく、リボソームタンパク質以外のリボソーム合成関連遺伝子群(RBG)にも、それぞれ発現上昇が認められた。一方、ヒストンアセチル化酵素遺伝子、gcn5破壊株では、野生型株にくらべ、r-fractionの減少が認められた。この時、RBGに目立った発現変動は、認められなかったが、遺伝子発現が、もともと高い遺伝子ほど、 破壊株では、発現が減少するという、発現変動の傾斜が認められた。こうした、発現変動の傾斜は、RPG破壊株では、みられなかったものである。RPGとgcn5との2重破壊株では、両者の発現変動を重ね合わせたような結果が得られた。即ち、r-fractionは両者の中間的な値を示す一方、それぞれに特徴的にみられた、RBGの発現変動や、発現変動の傾斜は、ともに生じているようにみえた。以上のことから、r-fractionの変動には、gcn5が関わる発現変動の傾斜とRPG破壊株でみられたリボソーム合成に特異的な発現制御という少なくとも2種類の制御経路が存在することが示唆された。
|