今年度(R3/2021年度)も、前年度と同様に、理論の整理に多くの時間を費やすことになった。本来であれば、海外に出張してフィールドワークを実施する予定であった。だが、前年度から続く感染症の影響によりそれが困難になったため、研究室の中で文献を読みながら理論を整理する作業を継続した。ただし、前年度に引き続き主要な文献を網羅することにより、分析視点について深く検討することはできた。重点的にカバーした文献の詳細については、前年度と変わっていない。まず、社会学の制度論(historical institutionalism)・世界文化論(world culture theory)の分野で、重要度の高い文献をカバーすることができた。加えて、NGO(non-governmental organization非政府組織)活動の一般的な理論について多くの文献を整理して、研究の視野を拡大することができた。さらに、東南アジア諸国連邦(ASEAN)の事例研究に役立つ文献をカバーすることができた。とくに、前年度から継続して、東南アジアの市民社会・NGO活動に関して、楽観論者と懐疑論者、双方の議論に関心を向けた。前者は、リベラリズムに依拠するグローバル規範の地域的な意義を念頭に置いて、市民社会・NGOが独立した活動を展開して地域ガバナンスの形態を再構成する可能性は高いと考える。後者は、東南アジア各国政府の権威主義的な統治およびASEANという地域組織の保守的な外交規範を念頭に置いて、市民社会・NGO活動が自律的に有益な活動を展開する可能性は低いと考える。今年度も継続して実施した、両者の議論を支える前提条件を特定する作業は、グローバル・ガバナンスにおけるNGOの役割を考察するのに役立ったといえる。
|