研究課題
1. 持続性心房細動患者における脳梗塞発症リスク評価.心房細動は脳梗塞発症のリスク因子である.本研究では,持続性心房細動患者の心拍変動 (心室応答時系列)を解析し,脳梗塞発症と関連する心拍変動特性を見いだした.先行研究において,脳梗塞発症のリスク予測指標として心拍変動の粗視化エントロピーが提案されてきた.しかし,粗視化エントロピーが心拍変動のどのような特性を反映しているのかという解釈については,明らかになっていなかった.本研究では,粗視化エントロピーが時系列の確率分布特性,自己相関特性を反映することに注目し,両特性が脳梗塞発症のリスク因子であるかどうかと検討した.分析の結果,確率分布特性が最も重要な脳梗塞発症の予測因子であることが明らかになった.この知見は,心房細動患者における脳梗塞発症リスクの評価に貢献することが期待できる.2. 鬱血性心不全の心拍変動特性に基づく予後予測.先行研究において,心拍変動の非ガウス特性は鬱血性心不全患者の予後予測因子であることが示されてきた.本研究では,時系列の非ガウス特性をより詳細に定量化するために,新たなキュムラント分解法を導入した.この方法を用いた心拍変動の解析により,生命予後と関連する時系列特性が明らかになった.3. 暑熱環境労働者の体調評価指標の開発.熱中症等の暑熱環境における暑熱障害の発症を予防するため,ウェアラブルデバイスを用いた労働者の体調評価法を開発した.これまで,心拍変動解析は,心拍変動時系列のみを単独で評価する方法が主流であったが,本研究では,加速度信号から評価可能な身体活動量と心拍変動を組み合わせることで新たな指標を導入した.この指標が,体調不良や軽度の暑熱評価に有用であることを示した.
2: おおむね順調に進展している
心拍変動特性に注目した分析を通じて,心房細動患者における脳梗塞発症のリスク因子,鬱血性心房細動患者の生命予後の予測因子を明らかにすることができた.今後,より大規模なコホート研究を通じて,エビデンスを積み上げる必要があるが,心拍変動解析の有用性を確認することができた.また,早期診断の可能性を示す目的では,ウェアラブルデバイスの有用性を示すことができた.
これまでの心拍変動の解析法は,心拍変動時系列を単独で分析するアプローチが主であった.今後は,身体活動量,呼吸変動など,複数の生体信号特性を組み合わせることで,診断や予後予測精度を改善する方法を検討する.また,長期にわたる持続的な生体信号モニタリングを実現するために,ウェアラブルデバイス,ニアラブルデバイスの活用について検討する.特に,労働環境における健康管理への応用を検討する.
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Entropy
巻: 19 ページ: 672~672
10.3390/e19120672
Journal of Interventional Cardiac Electrophysiology
巻: 49 ページ: 271~280
10.1007/s10840-017-0272-4