研究課題/領域番号 |
17KT0130
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
福原 武志 順天堂大学, 医学部, その他 (20359673)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | トランスオミクス / パーキンソン病 / CAGE解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、超高齢化社会において問題となっている慢性炎症性神経変性疾患に着目し、特に根治療法が存在しないパーキンソン病(PD)のバイオマーカーを同定する。病態において要となるメカニズムをトランスオミクス解析により臓器連環の観点から解明する。特に血管内皮細胞と白血球の相互作用に影響を与えるPDバイオマーカーを同定後、治療用抗体の分子標的を同定する。申請者は機能性抗体の作成を得意としており、分子標的に対するPD疾患修飾治療(disease modifying therapy)抗体の創生を目指している。 順天堂神経学グループでは、測定原理の異なる複数の質量分析計により代謝産物を包括的に同定するメタボローム解析を施行し、トリプトファンやカフェイン代謝産物(T. Hatano et al., 2015)、本年度の成果として脂肪酸代謝産物(S. Saiki et al.,Sci. Report)を主なPDバイオマーカーとして見出した。申請者は、炎症タンパク質などの分泌因子群を解析する目的で、パイロットスタディとして3種の神経変性疾患および健常人由来の末梢血液の炎症因子に関するSecretome解析を行っており、クラスター解析の結果、PD特異的な因子を明らかにした。複数コホートの結果を踏まえて、更なる解析が必要である(未発表)。 過去の知見から、PDにおいて末梢血液内の白血球(単球やT細胞)数に変動がみられることが知られている。詳細は不明だが、血液脳関門(BBB)を越えて脳内に滲出し神経傷害を惹起すると考えられる。我々はPD病症初期にある患者の末梢血液に存在する白血球のトランスクリプトームCAGE解析(理研との共同研究)から、PD特異的な遺伝子の候補を明らかにした(未発表)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メタボローム解析については、PD病態初期に特徴的な発現変動を示す脂質代謝物(アシルカルニチン)群を同定することに成功し、論文発表した(S. Saiki et al., Sci. Rep., 2017)。トランスクリプトーム解析についてはPD bloodからのCAGE解析を行った。miRを含むRNAについて抽出を行い、配列決定により得られたデータについて、3つの解析アルゴリズムで解析した。その結果、PARK2患者と健常者のトランスクリプトームについてcoding-RNAまたはnon-coding RNAに発現の差異を認める結果を得られた。準備状況の進捗により、今後PD患者由来iPSから樹立した神経幹細胞ないし神経細胞のトランスクリプトームについても解析を行う予定である。血液系、神経系のトランスクリプトーム解析により、より実態が明らかにできると考えている。またマウス脳血管内皮細胞bEnd.3を用いての解析にはなるが、TEER測定、および損傷治癒と管腔形成をライブイメージングにより経時的に追跡可能となった。 不死化ヒト脳血管内皮細胞HBMECを用いた解析を進行中である。バイオマーカー候補の因子について、これらの機能に与える影響を定量的に解析する準備が整ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
データベースの拡充と維持ならびにメタボローム解析については、本研究室の斉木らが主体になって病態マーカー代謝物の解析を進めている。本研究では30年度には、(1) PD transcriptome解析:血液サンプルのトランスクリプトーム解析について得られたデータをもとに共同研究差らが学会発表を済ませており、現在は投稿準備中である。血液に加えて、CAGE解析が有効と考えられたため新たにPARK2-PD患者由来のトランスクリプトーム解析についても行った。既にiPS、NPC(神経前駆細胞)、ドーパミン神経をサンプルとして同様の技術およびアルゴリズムにより候補遺伝子リストを得ているので、これらについてqPCRなどによる検証を進める。検証を行い、データをまとめて投稿予定とする。(2) PD患者の血液に含まれる分泌因子を高感度に測定する目的で、TNFaやIL1bなどのサイトカインレポーター細胞を入手して測定系を確立したので、これを活用する。さらにNFkBを介する炎症刺激全般を分泌型アルカリフォスファターゼまたはルシフェラーゼで定量することのできるTHP1単球由来細胞株を用いて、PD血液の状態を把握するとともにTHP1細胞機能に影響をあたえるか検討する。また、脳血管内皮細胞株HBMECを用いて、THP1とHBMECの接着や浸潤が亢進するか、検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、-20度フリーザを購入する予定であったがスペースが無く次年度に先送ることとした。また、当該研究の予算配分について、サイトカインの測定などの高感度およびスループット向上の工夫を行ったことにより、次年度以降に研究予算を配分可能となった。30年度の実験計画に充当する。
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