研究課題/領域番号 |
17KT0135
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡辺 はま 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任准教授 (00512120)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2022-03-31
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キーワード | 乳児 / 触覚 / 個人差 |
研究実績の概要 |
触覚が環境の中で生きるための「触知性」として発達し、身体を用いた触コミュ ニケーションにつながる過程を明らかにすることを目指し、初年度(2017年度)は、乳児の日常生活における触覚を伴うコミュニケーションに関する調査を実施した。その結果、特に「寝かしつけ」場面において、乳児と養育者の相互が触覚を伴う行為を発していること、また養育者の情動経験は、具体的な「乳児の世話」を要する場面ではない「だっこ・おんぶ」の状況で生じていることが明らかにされた。本年度(2018年度)は、初年度の成果を日本赤ちゃん学会にて報告した。また、本年度は、「だっこ」の状況に焦点を当て、触経験を定量的に理解するための計測環境の確立に取り組んだ。「触る」経験(情報の発信)と「触られる」経験(情報の受信)のうち、特に後者に着目し、経験下での乳児の生理状態を安定的に得る方法を検討した。生理指標として、覚醒時の乳児の心拍を採用し、養育者ではない他者(研究室女性スタッフ)が椅子への座位にて乳児を抱くセッティングにおいて、①乳児の胴・腹部に腕を回す状況(皮膚接触なし)、②乳児の左右の手の平で他者の手を握らせる状況(皮膚接触あり)の2条件にて、生理状態を計測した。予備的な計測として、3ヶ月齢児15名に対する検討をおこない、両条件での乳児の生理的な状態(心拍の特性)が異なるかどうかの調査を進行中であり、引き続き人数を増やし、結論を導くことを目指している。さらに、理論的な側面において、「自らの置かれた環境を『探る』存在」としてのヒトの初期発達に関して思考を深める中で、オラリティに関して、個人差・個性の観点から考える重要性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた、「触られる」経験(情報の受信)に関して、生理状態を客観的に計測する方法を確立することができた。その過程で、ヒトの初期発達においては、多くのケースをまとめたり平均したりして捉えるだけではなく、個人差・個性に関する視点を持ちながら進めることが、触知性の発達からオラリティの発達への理解を深めるために重要であることを再認識することができた。当初の予定では明示していなかった個人差・個性の視点を重要視することができたため、今後進める「触る」経験(情報の発信)に関しては、個人差・個性を視野にいれた形での計測・実験パラダイムにつなげることができる。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度に実施した質問紙調査と2018年度に実施した「触られる」経験(情報の受信)に関する生理状態の予備計測をふまえて、「触る」経験(情報の発信)に関する生理状態の計測を実施し、「触る・触られる」といった相互作用の中で見られるオラリティ生起場面での、乳児と成人の動的な触コミュニケーションとそれに伴う身体的情報の時系列的変化を明らかにする。2018年度における計測環境の確立においては、既存の計測装置を利用した予備計測をおこなったため、乳児用および成人用の、触覚に関連した情報を検出できる「tactile suit(触覚スーツ)」の開発は2019年度に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究目標・研究計画に従った検討において、既存の設備(心拍計等)を使用することで順調に計測が進んだこと、また実験的検討の基盤となる理論的検討を優先したことから、包括的な知見を反映させた「tactile suit(触覚スーツ)」の開発を次年度に実施することとした。2019年度は、さらに実験的な検討を進めた上で、スーツの開発に支出する予定である。
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