研究課題/領域番号 |
17KT0142
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
池田 雄介 東京電機大学, 未来科学研究科, 助教 (80466333)
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研究分担者 |
及川 靖広 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70333135)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 物理音場合成 / スピーカアレイ / 高速1bit信号 / 局所音場合成 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、高速1bit信号を用いた超多チャンネル没入型3次元音場再現システムの構築とそれを用いた物理音場制御技術の確立を目指している。平成29年度は、音場再生システムの設計と基幹部の構築、シミュレーションによる音場再現手法の検討と没入型スピーカアレイ形状とスピーカ配置密度の検討を行った。音場再現システムの設計と基幹部の構築では、高速1bitを用いることで大規模多チャンネル再生システムへと拡張可能なシステムを提案・設計し、FPGAとARMを用いてクロックレベルですべてのオーディオ信号の同期再生が可能なシステムを提案した。また、提案システムを用いて駆動する没入型スピーカアレイの設計と構築を進めた。音声音場の再現を目的として軽量かつ充分に小型なスピーカユニットの選定を実施した。スピーカアレイの拡張・配置の変更あるいは移動・運搬が容易となるように分解可能なスピーカアレイを想定し、エンクロージャの設計を進めた。また、提案システムを用いた高速1bit信号によるスピーカユニットの直接駆動を実施し、インパルス応答の計測やレーザ振動計を用いたスピーカ表面の振動計測を行い、再生音に対して量子化ノイズの影響が充分に小さいことを確認した。また、スピーカユニット自体の物理的制約によって、スピーカアレイの実音源密度を上げることには限界があり、このため高周波数までの音場再現が困難となる。そこで、頭部周辺の領域を取り囲むように仮想的なスピーカを高密度に生成することで、実スピーカの物理的制約を越えた高周波数の音場再現が可能な局所音場再現手法を用いた物理音場再現技術について数値シミュレーションによる検討を進めた。自由音場を仮定した3次元音場再現の数値シミュレーションによって実スピーカアレイの形状・配置による3次元音場の再現精度への影響を物理音場再現手法ごとに評価し、構築するスピーカアレイの形状を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速1bit信号を用いた超多チャンネルシステムの構築においては、スピーカの直近までデジタル信号のまま伝送が可能で、軽量かつ小型な多チャンネル再生システムを提案した。提案システムをFPGAとCPUを併用し基幹システムとして構築を行い、多チャンネル化への見通しを得た。さらに、数値シミュレーションによる局所音場再現手法の検討を行い、没入型スピーカアレイのスピーカ配置が再現精度に与える影響について再現手法ごとに比較を行い、没入型スピーカアレイの形状の検討が進んだことから、概ね順調に推移していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、高速1bit信号を用いた多チャンネルシステムの構築を進め、数値シミュレーションによる音場再現手法の検討を加速しつつ、効率的なインパルス応答計測手法・システムの検討、実測による音場再現手法の評価、検討を行う。具体的には、昨年度設計した可搬可能なスピーカアレイとそれを駆動する高速1bit信号再生システムの構築をさらに進める。実測による音場再現手法の検討を進める目的で、まずスピーカアレイと高速1bit信号を用いた多チャンネル再生システムの基本的な音響性能を計測する。スピーカごとに異なる特性を補正するには、インパルス応答の計測が不可欠であるが、膨大な数のインパルス応答の計測が必要となる。そこで、3次元音場制御や実測シミュレーションに必要なインパルス応答を効率的に計測するための手法を数値シミュレーションにより検討する。特に、受聴者の動きに合わせて音場再現領域を移動させるためには広範囲の計測が必要となることから、インパルス応答の補間・推定手法の検討を進める。次に、また、スピーカの指向性の計測とそのモデル化や設置する室内の反射音のモデル化を検討し、モデル化の誤差が再現性能に与える影響について評価を行う。合わせて、計測されたインパルス応答を用いたシミュレーションを行い、仮想スピーカの合成性能や3次元音場再現手法の評価、検討を進める。また、複数の音場制御領域を制御する問題は、より複雑な問題となり、一般に局所音場再現手法に用いられるTime Reversal法などでは困難であった。そこで、複数領域の音場制御を行うための仮想スピーカアレイの合成手法やそれを用いた音場再現手法の提案、検討を数値シミュレーションで行う。また、構築したシステムや提案手法を用いて基礎的な聴感実験を行い、水平方向と仰角方向の定位性能を計測する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施予定であったシステム構築を実施中に、必要となるスピーカユニットに在庫不足の問題が生じ、全体システムの実質的な構築が遅れたことから、システム全体の構築とその実験に必要な予算の一部、約530千円を次年度に繰り越して執行することとした。システム基幹部の設計と構築は概ね順調に進んでおり、次年度は、本年度作成した基幹システムを拡張し、多チャンネル音場再現システムの構築を加速する。このため、追加のスピーカユニットの購入費および基板作成費、エンクロージャ作成費等を合わせて500千円を計上する。また、構築したシステムの基本的な物理性能の計測のための冶具作成費を30千円計上する。構築したシステムとそれを用いた音場再現手法の提案に関して、国際会議(AES Conference 2018/08, ICASSP 2019/05)、国内会議(日本音響学会研究発表会,2018/09)において発表を行うための旅費および参加費を150千円計上する。また、研究成果を取りまとた論文の投稿費用を80千円を計上する。作成したシステムの基礎的な性能に関する心理実験を行い、その実験協力者に対する謝金を70千円計上する。
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