研究課題/領域番号 |
17KT0148
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
秋吉 英雄 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (20150360)
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研究分担者 |
吉田 真明 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (50555498)
川向 誠 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 教授 (70186138)
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研究期間 (年度) |
2017-07-18 – 2020-03-31
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キーワード | 藻食性魚類 / イソギンポ科 / 消化器官 / 腸内微生物 / 培養 / アンプリコン解析 / メタゲノム解析 / ヨダレカケ |
研究実績の概要 |
一般的に藻食性魚類と記載されている魚種を網羅的に調べ,そのほとんどが雑食性魚で,藻食性に特化した魚類は非常に少数であると考えられた.雑食性魚類の特徴である無胃魚および長い腸は必須の構造であるが,胃腺を認めない胃様の腸膨大部がほとんどの海水魚種に存在していた.この膨大部の働きとして魚体の浸透圧調整機構に関与(海水飲)していると推察された. ゲノムインフォマティクス解析によって,腸管内微生物の遺伝子配列を解読.その系統的多様性と機能遺伝子の同定を行った.イソギンポ科の藻食性魚類であるヨダレカケ,藻食性+雑食性魚のホシギンポ,雑食性で藻食性でないヘビギンポ科のヘビギンポの腸内容物からDNAを抽出,16S rDNA V4-V5領域を増幅して次世代シーケンス(Illumina Miseq) により網羅的に配列を大量決定し,3種の腸内微生物叢を比較した.ホシギンポは,複数の微生物叢,ヘビギンポは単一の微生物叢であった.一方,藻食性魚類のヨダレカケは,多数の微生物叢を構成しており,Proteobacteria門,Spirochaetes門,Bacteroidetes門,Deferribacteres門,Verrucomicrobia門が見出され,特徴的な菌種ではTenericutes門等,反芻胃や無酸素の深海中などから発見される系統を認めた.これらの結果より,雑食性魚と藻食性魚の腸内微生物叢は明らかに異なっていた. ヨダレカケの腸内微生物の培養では,単離した各株の16S rDNA領域を増幅しDNA配列を決定し,Vibrio属,Shewanella属,Pseudomonas属の細菌と推定した.嫌気条件より得られたアガロースゲル分解細菌は,Vibrio alginolyticusと高い相同性を示し,珪藻分解性細菌を一群に持つPseudoalteromonas属,Bacillus sp.Vibrio sp.Shewanella sp.と高い相同性を示す株を得た.好気条件より得られた未知菌株はVibrio sp.V859,Vibrio sp.V639,Vibrio harveyi,Pseudoalteromonas sp.JL-S1と高い相同性を示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画書記載の平成30年・令和元年度の目的は,藻食性魚類の網羅的探索および消化管の特性を前年度に引き続き行うとともに,培養および消化管内容物の精査が行えなかった魚種の検討を行う.最終的な目標であるアガロース,フコイダン,アルギン酸等,多糖類の分解速度の高い微生物探索のために,ヨダレカケやホシギンポを飼育し,フコイダンを高率に有するモズクを直接食させることで,腸内微生物の中からモズクを分解する微生物を効率的に抽出する予定であるが,おおよそ計画通りに進行している. 現行でのメタゲノミクスの限界.ゲノムインフォマティクス解析による腸管内微生物の遺伝子配列を網羅的に解読し,系統的多様性と機能遺伝子の同定を行うと共に,次世代シーケンスを使った新たなメタゲノミクス研究手法の開発が必要であると考えている. イソギンポ科のホシギンポをモズク単独食で飼育し,腸管内微生物の培養に供している.モズク摂取直後の腸管微生物は,特定の菌体数が異常に増加しており,特にVibrio alginolyticus, Vibrio parahaemolyticusは著明な増加が見られる.現在,単離したVibrio harveyi, Vibrio owensii,Vibrio alginolyticus, Vibrio parahaemolyticus の生化学的特性実験を行っているが,Vibrio alginolyticus, Vibrio parahaemolyticus は,LB培地でコロニーの周囲のみ侵食しているが,フコイダン添加培地では,全体に拡散するような特異的な生育が見られている.Vibrio harveyi, Vibrio owensiiはフコイダン添加培地でもそのような拡散するような生育は見られていないことから,Vibrio alginolyticus, Vibrio parahaemolyticusはモズクの分解に関与する可能性が示唆されることから,今後は生理学試験を経て酵素遺伝子の探索を行いたい. 社会貢献としては,総説1,国際シンポ1,国内学会発表2,現在論文執筆を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
藻食性魚類の解剖・組織学的な考察を行い,消化器系臓器の特性を国際雑誌・総説等に公表するとともに,フコイダンに特化したゲノムインフォマティクス解析・培養を行う予定である. ゲノムインフォマティクス解析は,得られた遺伝子配列から既知のアガロース,フコイダン,アルギン酸分解細菌の16S rDNA 配列と比較し系統解析を行うことで,腸内の藻類分解性微生物相を明らかにする方向である.現在,腸内細菌の培養と並行し,第3世代シーケンサーによるバクテリアゲノムのシーケンスの準備を進めており,ゲノム配列から遺伝子コード領域推定に利用する.また, 培養を経ずにメタゲノムから直接PCRで海藻分解酵素の存在を確認する系を模索しており, データベース上の既知の海藻分解酵素の配列と合わせて分子系統解析(最尤法・Bayes 法)を行い,多糖分解活性をもつ海藻分解酵素を同定・アノテーションする予定である. 培養実験では,モズク食腸内には,アガロース,フコイダン,アルギン酸などの海藻多糖類を分解する微生物の存在を期待しており,今後は,単離した微生物の生理学的試験(生育温度,糖資化性,酸素要求度,薬剤耐性など)および分解酵素の性質の検討,酵素遺伝子の単離,大腸菌内での酵素発現,酵素の生産あるいは改変へと研究を進める方向である. 社会貢献としては,国際および国内学会において成果を発表,国際誌への投稿を予定している.またこの研究手法を広く公開する手段として,セミナーやマスコミ等への方向性を検討している.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定に必要な経費が,研究予定の遅滞によって次年度使用額が生じた.
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