研究概要 |
1)新しいモーター分子の構造と機能の分子細胞生物学的及び分子遺伝学的解析: KIF26Aの全長配列を明らかにし、モーター領域のアミノ酸配列、特にATP加水分解にかかわる部分が変異したユニークなKIFであり実際に微小管により活性化されるATPase活性がないことがわかった。KIF26A欠損マウスを作成すると、生後5週以内に巨大結腸症のため死亡することが示された。分子細胞生物学的解析により、KIF26Aは、腸管神経節細胞に発現され、KIF26A欠損マウスでは、GDNF-Ret情報伝達系が過剰に活性化され腸管神経節細胞が特に結腸で50%ほど増加しこのため結腸の過剰な収縮が起こり巨大結腸になることがわかった。そして、KIF26AがGDNF/Akt/ERK情報伝達系を,その構成因子であるGrb2に直接結合し抑制することにより腸管神経節細胞の適正な発生を制御していることを明らかとした。このことによりKIF26Aは、ユニークなKIFであり細胞増殖シグナル系を抑制することにより腸管神経系の発生を制御する重要な働きをしていることを解明した。(Zhou et.al.Cell 139 : 802-813, 2009) 2)モーター分子による細胞内輸送の制御機構: 神経軸索をはじめとして細胞内では、蛋白質が膜小器官に組み込まれる形で送られる速い輸送と、細胞質蛋白質が複合体の形で送られる遅い輸送がある。主要なモーター分子であるKIF5sは、この両方の輸送を行っている。今回、イカの巨大軸索を用いた生物物理学、細胞生物学、マウスの分子遺伝学をもちいて、KIF5sによる輸送の変換機構を明らかにした。KIF5sは、軽鎖が、Hsc70を介して細胞質蛋白と結合し遅い輸送を行うが、軽鎖が、直接scaffold proteinを介して膜小器官と結合することにより速い輸送を行う。従って、Hsc70が、遅い輸送と速い輸送の交換スイッチの役割を果たしていることを明らかにした。実際Hsc70と結合する軽鎖の結合部位を過剰に発現するトランスジェニックマウスを作成すると、遅い輸送が阻害され、早い輸送が促進された。細胞内輸送の重要な制御機構を解明した。(Terada et.al.EMBO J 29 : 843-854, 2009)
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