研究概要 |
視交叉上核は体内リズムの中枢であり、ここには約一万個の神経細胞がリズムを調律している。視交叉上核の発生では、視交叉上核の腹側部のVIP細胞が背側部のAVP細胞よりも早く神経分化することを明らかにし、神経発生の面からも視交叉上核は2種の細胞系に分かれることが明らかとなった。次に視交叉上核細胞内の時計遺伝子リズムの数学的解析にて、時計遺伝子のリズムが従来のモデルであるself-sustainedシステムか、末梢時計と同じdamping oscillator(減衰振動子)の集合体モデルかを検討し、両者とも可能であることを理論上推測した(共同研究)。次に、この視交叉上核の網羅的解析から、GPCRを介する伝達反応に関与する遺伝子を採取し、そのシグナルが、サイクリックAMPを介して、時計遺伝子の遺伝子制御を行い、調律を早めることが、その遺伝子のノックアウトマウス解析から明らかとなった。なおこの遺伝子は、視交叉上核の背側細胞にしか発現していないので、このタイプの調律は背側細胞でしか起こらないことが明らかとなった。では、視交叉上核の別々のリズムで調律された背側と腹側の細胞はどのようにして同期しているのであろうか? 我々は、背側部から腹側部に投射しているペプチド性神経細胞を同定し、そのノックアウトマウスが睡眠相後退症候群(DSPS)のモデルになることを示した。 次に、視交叉上核から時間シグナルを受ける末梢臓器のうち、排泄の中心である腎臓の尿細管の全長で時計遺伝子がリズミックに発現していることをLazer microdissecdon法にて明らかにした。Na+とH+を交換輸送することで細胞内pH調節やNa+イオン, 水分輸送を行う重要な膜蛋白であるNHE3が、時計遺伝子により近位尿細管と遠位尿細管で部位特異的にリズミックに発現する、ことを明らかにした。
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