動物細胞由来のNa^+/H^+交換輸送体NHE1はあらゆる組織に普遍的に存在し、Na^+濃度勾配をエネルギーとしてH^+を排出することで細胞内pHなどの調節を行う。増殖因子や発ガン因子による刺激は最終的にNHE1を活性化して細胞をアルカリ化させる。この活性化にはNHE1のC末端細胞質ドメインにカルシニューリンB類似蛋白質CHPが結合することが必須である。CHPには2つのアイソフォームCHP1/2が知られており、CHP1が普遍的に発現しているのに対し、CHP2はガン細胞特異的に発現しNHE1を恒常的に活性化している。そこで本研究では、ヒト由来CHP2とNHE1のC末端細胞質ドメインとの複合体の立体構造をNMRによって決定し、すでに立体構造決定に成功しているCHP1-NHE1複合体との立体構造比較を行うことで、ガン細胞特異的なNHE1活性化機構の解明を目指すこととした。 平成19年度はCHP1/NHE1複合体およびCHP2/NHE1複合体の立体構造を詳細に比較し、CHP2によるNHE1の異常な活性化に寄与すると考えられる候補残基を推測するとともに、その幾つかについてはCHP1変異体を作成した。動物の培養細胞の系における活性測定の結果から、大幅に輸送活性が低下する変異体だけでなく、輸送活性を向上させる変異体が得られている。NHE1の細胞質側ループとCHP1/NHE1複合体の相互作用に関する解析においては、CHP1とそのNHE1細胞質側ループが相互作用することが分かった。
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