がん化に転写因子が関わることは多い。がん細胞での遺伝子発現異常を考えれば、これは当然のことである。我々はともに80数残基からなる高等生物に保存され、DNA結合するEtsドメインをもつEts-2とEwing肉腫に見られる染色体転座遺伝子産物EWS/FLI1を対象として、それらと標的DNAとの複合体の立体構造をX線結晶構造解析法で決定し、両転写制御因子の立体構造に基づきがん化の仕組みを解明し、阻害剤設計へ応用する。さらに我々がすでにX線結晶構造解析を終えたヒトMTH1の欠損がアポトーシスを起こすため、新たに抗がん剤の標的となる可能性があるので、hMTH1の立体構造に基づく薬物設計を本研究の目的とする。 本年度の成果は以下の通りである。 1.Ets-2全長について、時間が経ってもC末が切断しない条件を引き続き検討しており、現在のところ分解しない試料を得るのは難しいが、ドメインのさらなる高純度の精製が出来た。EWS/FLI1については、新しい発現ベクターを用いることによって可溶画分への移行する発現系を構築した。現在精製法の検討を行っている。 2.Etsドメイン-標的DNAオリゴマーの複合体の結晶化について、核酸-蛋白質結晶化によく使われる条件とオリゴマーの鎖長を中心に、幅広くスクリーニングを行った。結晶化の際、動的光散乱装置を用いて、結晶になり易い単分散系になる複合体試料の調製条件を検討し、良好な条件を見出した。得られた結晶の良否を実験室のX線回折装置で調べ、良好な結晶のX線強度データを放射光実験施設(SPring-8とPF)で収集、分子置換法を用いて構造解析を行った。現在、さらに分解能の向上を目指している。 3.MTH1の阻害剤の設計については、プログラムMOEを用いたコンピュータドッキング法でリード化合物のより詳細な検討を行っている。
|