がん化に転写因子が関わることは多い。がん細胞での遺伝子発現異常を考えれば、これは当然のことである。我々はともに80数残基からなる高等生物に保存され、DNA結合するEtsドメインをもつEts-2とEwing肉腫に見られる染色体転座遺伝子産物EWS/FLI1を対象として、それらと標的DNAとの複合体の立体構造をX線結晶構造解析法で決定し、両転写制御因子の立体構造に基づきがん化の仕組みを解明し、阻害剤設計へ応用する。さらに我々がすでにX線結晶構造解析を終えたヒトMTH1の欠損がアポトーシスを起こすため、新たに抗がん剤の標的となることが分かったので、hMTH1の立体構造に基づく薬物設計(SBDD)も本研究の目的とした。 EWS/FLI1について、現在唯一可溶画分に移行できるトリガーファクターとの融合タンパク質のより高純度精製を試みたが、分解が問題で分解しない条件を見出せていない。まだ試してしない発現系が数少ないがあるのでその発現系について検討中である。 Ets-2については、Etsドメイン(ETSD)と標的DNA複合体の結晶化条件の検討を重ね、構造解析可能な結晶が得られた。放射光実験施設で40K下X線回折データを収集することで、分子置換法での構造解析後の3.0Aでの構造の精密化ができた。明らかになった複合体の構造から、Biacoreを用いて測定したETSDといろいろなDNA配列との親和性についての構造的基盤が明らかになった。さらなる転写制御の仕組みを解明するために全長Ets-2とコファクタータンパク質とDNAの3元複合体の結晶化に研究を展開している。 hMTH1の阻害剤の設計の課題については、ドッキングプログラムMOEを用い、様々な配座データを含むライブラリーから活性部位に結合する低分子を検索し、阻害剤を見つける作業を行った。現在、IC50が50μM程度の阻害剤を見出している。
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