ヒト急性骨髄性白血病の原因遺伝子であるRunxlの発現制御について、昨年度に引き続き、Tリンパ球を用いて解析した。 Tリンパ球はRunxl蛋白を発現しているが、細胞を抗CD3抗体で処理するとRunxl蛋白量がダウン・レギュレートされる。この時、TCRシグナルの阻害剤であるサイクロスポリンを添加すると、Runxl蛋白の消失が起こらなかった。即ち、TCRシグナルはカルシニューリン経路を介して、Runxl蛋白をダウン・レギュレーションする。さて、静止期Tリンパ球では遠位プロモーター由来のRunxl転写産物のみが発現している。ところが細胞をTCR刺激すると、近位プロモーターからのRunxl転写誘導が先ず起こり、それに遅れて、遠位プロモーターからのRunxl転写が抑制される。この近位の誘導と遠位の抑制は、細胞をサイクロスポリンで処理すると消失した。さらに、近位プロモーター(NFAT結合部位を有する)を用いたレポーター・アッセイでは、カルシニューリンの共発現はプロモーター活性を促進した。一方、遠位プロモーター(Runx結合部位を有する)を用いたアッセイでは、Runxl蛋白の共発現はプロモーター活性を抑制した。そして、近位プロモーターへのNFAT転写因子の結合、及び遠位プロモーターへのRunx転写因子の結合を、ChIPアッセイにより確認した。最後に、近位Runxl転写産物に特異的なsiRNAを細胞に導入すると、TCR刺激によるRunxl蛋白のダウン・レギュレーションが消失した。 以上から、TCR刺激のカルシニューリン経路を介した標的は近位プロモーターであり、発現誘導された近位Runxl蛋白が、遠位Runxlプロモーターを抑制し、最終的にはRunx1蛋白のダウン・レギュレーションにつながることを明らかにした。
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