Notchシグナルは、種々の細胞運命決定において重要な役割を果たしていることが示されている。また近年、このシグナルには発がん促進と抑制という二面性があることが示されている。 造血系においてNotchシグナルは、二次造血の発生、T細胞への運命決定、胸腺CD4 CD8 double negative(DN)T細胞からdouble positive T細胞への分化、脾臓marginal zone B(MZB)細胞の発生に必須であることが示されている。 我々はヒトMastermind(Mam)のファミリー(Mam-1、Mam-2、Mam-3)を見出し、その機能を見いだしてきた。今回Mam-1の遺伝子欠失マウスを作製し、その表現型を解析した。初代培養胎仔線維芽細胞において、Notch細胞内ドメイン発現による標的プロモーター活性化を検討したところ、Mam-1欠失細胞では野生型に比べ数分の一に低下していた。このことからMam-1はNotchシグナルの強度を維持するために必要であると考えられた。 Mam-1欠失マウスは発育遅延を示し、生後3週以内にすべて死亡した。このマウスの胸線は低形成であり、DNT細胞の割合が増加していた。胎仔肝、および生後1週の骨髄中の造血幹・前駆細胞のコロニー形成能、移植後の骨髄再構築能には異常は見られなかったが、移植マウスの胸腺においてMam-1欠失細胞のDNT細胞の割合の増加が再現しており、さらに脾臓ではMam-1欠失細胞由来のMZB細胞分化が大きく抑制されていた。以上よりMam-1は造血系においてNotchシグナル伝達を部分的に担っていると考えられた。 一方、同様に作製したMam-2遺伝子欠失マウスにおいてはT、B細胞の発生には異常がみられないことから、Mam-1およびMam-2は生体において異なる機能を有していると考えられた。
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