研究概要 |
制限酵素で断片化したゲノムDNAの中から,特定の修飾塩基を含む断片のみを免疫沈降で濃縮する方法の開発を行った。修飾塩基として,比較的生成量の多い8-hydroxy-2ユ-deoxyguanosine(8-OHdG)とacrolein-modified 2ユ-deoxyadenosine(Acr-Ade)を選出し,開発した単クローナル抗体を使用した。基礎実験によりシステムの特異性と定量性を確認した。マウスに腎発癌剤である鉄ニドリロ三酢酸(Fe-NTA)を投与し以下の実験を行った。Fe-NTAにより腎臓特異的に酸化ストレスを与えると,免疫沈降されるDNA断片量は両修飾塩基について有意に増加した。回収DNA断片をライブラリーとした。プラスミドにクローニング後,各群約300クローンの塩基配列決定を行い,染色体上にマッピングした。染色体分布に関して検討を行うと存在比で有意に高低を示す染色体が見られた。特に,8-OHdG/controlで多い16番染色体とAcr-dA/Fe-NTAで多い15番染色体に注目した。15番と16番の染色体に関して,ペインティング・プローブを使用してFISH解析を行った。すると,15番は核膜の近傍に,16番は核中心部に存在する確率の高いことが判明し,染色体領域の関与が示唆された。免疫沈降したDNA断片を増幅し,注目するゲノム領城でPCR解析できる手技も開発した。今回の実験条件で8-OHdGはAcr-dAに較べ発現の高い遺伝子に高頻度に存在し,2種のDNA修飾塩基のゲノム内分布はランダムではなかった。GptΔtransgenic mouseを使用してFe-NTAの腎変異スペクトラムを検討した。点突然変異はG : Cに多く,特にG : C to C : G変異を認めた。また,短い相同配列を跨いだ1kb以上の欠損を23%のSpi-選択プラークに認めた。ラットCGHアレイ(185k)を使用し,Fe-NTA誘発ラット腎癌8サンプルの解析を行った。ほとんどの染色体において,腫瘍に共通してアレル数の増減がある領域を認めた。これは動物発癌では初めての観察であり,ヒト発がんにおいても酸化ストレスの関与を示唆するものであった。
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