申請者は、最近ヒトの動原体タンパク質Mis12複合体を精製し、構成因子の同定に成功した。その中には低分化度の腫瘍で高発現していることが知られているHEC1/KNTC2およびD40/AF15q14/KIAA1570が含まれていた。これを踏まえて本課題では、ヒトMis12複合体の構成因子の機能発現異常とがん細胞の形質の変化との共役についてアプローチすることを目的とした。 本年度は、特にMis12複合体とヘテロクロマチン蛋白質であるHP1との相互作用について解析を行った。HP1との結合にはMis12コア複合体の構成因子であるDC8が直接的に寄与していること、また、その責任アミノ酸を同定した。この情報に基づき、HP1と結合できない変異Mis12複合体を内在性のものと置き替えて細胞内で発現すると、M期に染色体が赤道面に並ばないという、典型的な染色体の分配異常の表現型を示した。また、この細胞では動原体が完全に構築できていないことが明らかとなった。これまで、HP1はRad21などと相互作用してセントロメア領域の染色体合着に寄与することが知られていたが、本研究により、HP1が動原体装置そのものと協調的に働き、染色体分配に寄与することが明らかとなった。ヘテロクロマチンは様々な染色体上の機能装置の構築に寄与し、遺伝情報の安定維持に寄与していることが示唆されていたが、その具体的なリンクは不明であった。本年度の課題で、その重要なパスウェイの具体的なリンクのひとつを初めて示すことができたと考えている。
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