AIDはがん遺伝子に変異を入れ、細胞腫瘍化に於いて病的に機能している可能性が高い。本研究は元来免疫グロブリンに変異を蓄積する事で有効な感染防御の獲得に寄与すべきAIDが、何故がん遺伝子を標的としてしまうのか、又それが腫瘍の誘因と成るのか、進展を助長するのか等特にリンパ腫の発生の観点から明らかにする事を目的とする。 体細胞突然変異(SHM)を効率よく検出し、且つ人為的に制御できる様にするためSHM活性の高いAIDのC末端欠損変異体をヒトestrogen受容体制御領域(ER)と融合させたJp8BdelER蛋白を発現させたヒトB細胞系腫瘍細胞株を作製し、その抗体遺伝子に対するSHMの頻度を比較した。Bリンパ腫細胞BL2とPre-B細胞種Nalm-6細胞において、人工標的であるGFP遺伝子は同じ効率で不活化されたのに対して、抗体遺伝子(H鎖)への変異の導入頻度がNalm-6において著しく低い事が明らかになった。この事は、人工的に導入されたモデル遺伝子と異なりPre-B細胞の抗体(H鎖)遺伝子にはSHMが導入されにくくなる機構が働いている可能性がある。DNA2重鎖切断修復に関わるヒストンg-H2AXの特異的集積は、双方に認められたため、SHM導入を行なうmutatorのDNAへのaccessibilityがNalm-6で無くなっているという訳ではなく、従って修復過程の違いによってSHM効率が変わっている可能性が示唆された。また、ピストン脱アセチル化阻害剤TSAの処理でもNalm-6へのsxM頻度の上昇は認められず、ヒストンア脱セチル化の関与は支持されなかった。 以上In vitro培養系に於ける解析に平行し、in vivoでのPre-B細胞腫とB細胞腫発生へのAID遺伝子の関与の差をEmu-c-myc transgeneとAIDノックアウトの2重変異を持つ動物で解析した。その結果AID遺伝子はBリンパ腫発症に関わるが、Pre-B細胞リンパ腫の発症への関与は低い事が示唆された。
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