研究概要 |
酸化と脱アミノ化は核酸,特にプリンヌクレオチドの生体内における化学修飾の代表的なものである。dATPとdGTPはそれぞれ,酸化されると2-OH-dATPと8-oxo-dGTPが生じ,また脱アミノ化されるとdITPとdXTPになる。これらの修飾ヌクレオチドは元のヌクレオチドとは異なる塩基と対合する性質を有しており,突然変異ひいては発がんの原因となると考えられる。我々は,脱アミノ化プリンヌクレオチドが生体に及ぼす影響を解析するために脱アミノ化プリンヌクレオシド3リン酸を分解する酵素,ITPaseをコードする遺伝子のノックアウトマウス(Itpa遺伝子欠損マウス)を作製,解析を行った。 Itpa遺伝子ホモ欠損マウスは,新生児期に消化管にミルクを確認できるにもかかわらず成長遅延を呈し,生後14日前後で死亡した。心臓を電子顕微鏡で観察したところ,心筋のサルコメアの構造異常が確認された。生化学的解析より赤血球にITPの蓄積が,また複数臓器のRNAにイノシンヌクレオチドの蓄積が確認された。このことは,脱アミノ化プリンヌクレオチドが細胞内で確かに産生していること,ITPaseはこれらの修飾ヌクレオチドを分解する役割を担っていることを示している。また,ここで観察されたItpa遺伝子欠損マウスの表現型を説明するためには,その原因となっているITPaseの主な基質はdITPであると考えるよりrITPであると考えた方が適当であると考えられる。現時点ではITPが細胞内の種々の反応でATPと拮抗することにより心筋の機能を阻害し,その結果としてItpa遺伝子ホモ欠損マウスは心筋症様の症状を呈して死亡すると解釈している。 一方で,itpa遺伝子欠損MEF細胞では染色体異常が観察されている。デオキシヌクレオチドプール中のdITPの除去を行うことで発がん抑制に寄与している可能性を含め,ITPaseの生体における機能を明らかにしていきたいと考えている。
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