研究概要 |
近年,発がんの機構について遺伝子のエピジェネティックな制御異常が重要であるとの認識が広まり,特にヒストンテールの修飾におけるメチル化の役割が注目を集めている。クロマチンリモデリング因子CHD(Chromo-ATPase/helicase-DNA binding protein)は修飾されたヒストンに結合し,ATP依存的なヌクレオソーム形成や移動を行うと考えられている分子ファミリーである。CHDは種を超えて保存されており,ヒトではCHD1〜9の9つのメンバーが存在する。その一つであるCHD1は最近K4メチル化ヒストンH3に結合し,転写活性化に関わることが示された。われわれは,CHD8のノックアウトマウスを作製し,胎生早期にアポトーシスの異常な亢進によりマウス胚が死亡することを見い出した。そこでCHD8の欠損がなぜアポトーシスを引き起こすかという分子機序を解明する過程で,われわれは以下の事実を見い出した。 CHD8を過剰発現するとアポトーシスが阻害され,この阻害作用はp53を介するアポトーシスだけに認められた。CHD8はクロマチン上でp53と結合し,p53の標的遺伝子であるp21, Noxa, MDM2遺伝子等の転写活性化を抑制した。さらに,CHD8は単独で強力なトランスフォーメーション活性を示し,CHD8過剰発現細胞はヌードマウス移植で巨大な腫瘍を形成した。逆にCHD8をRNAiでノックダウンすると,アポトーシス感受性が亢進するが,この効果はp53のノックダウンによって抑制された。さらに,p53/CHD8ダブルノックアウトマウスは,CHD8ノックアウトマウスにみられるような胎生早期におけるアポトーシスを回避し延命した。これらの結果より,CHD8はp53の阻害分子であり,強力な抗アポトーシス作用を有する新規のがん遺伝子であることが明らかとなった。
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