ヒトRAD6B・RAD18タンパク複合体を精製し、フォーク型および長い1本鎖DNAに結合する性質をもつことを示した。このDNAへの結合には、RAD18のSAPドメインが必要であった。SAPドメインに変異を導入したRAD18タンパクは、DNAへの結合強度が著しく低下し、DNA傷害に応答しておこるDNA複製停止部位への集積がみられなかった。また、この変異RAD18タンパクは、RAD18欠損細胞のUV感受性を回復させる活性も失われていたことから、ヒトRAD6B・RAD18タンパク複合体は、フォーク型または長い1本鎖DNA構造を認識して結合することにより、停止した複製フォークに集積し、複製後修復を推進すると結論した。この研究成果は、複製後修復でRAD6B・RAD18タンパク複合体が停止した複製フォークのセンサーであることを示しており、発がん防御の戦略を立てるための重要な知見を供給した。さらに、個体レベルでのRAD18遺伝子の役割を明らかにするため、RAD18遺伝子ノックアウトマウスを作成し、その表現型を調べた。RAD18欠損マウスはほぼ正常に生まれ、成長した。雄マウスの生殖能は2カ月齢では正常であったが、加齢とともに低下した。加齢により精巣重量が低下し、精細管内の生殖細胞が欠失した。またRAD18欠損マウスの精巣での生殖細胞幹細胞の増殖と分化をサポートする能力は正常であった。特に精原細胞のみを欠失した精細管が多くみられた結果から、RAD18遺伝子は、生殖幹細胞の維持に必要であることが示唆された。本研究により、再生医学の実施という観点から重要である幹細胞の維持機構を理解するための知見が得られた。
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