研究概要 |
我々はこれまでに転写因子AP-1のサブユニットの一つであるc-Fosを欠損した(FosKO)マウスを解析し、骨髄由来マクロファージにおいて、定常的にNF-κBが活性化されていること、血中の炎症性サイトカイン量が高いこと、さらにLPS刺激によってその産生が野生型マウスと比べて亢進することを明らかにし、AP-1とNF-κBの関連性を見いだした(Ray, et. al., Int Immunol, 2006)。そこで"AP-1とNF-κBが拮抗関係にあり、その破綻ががん化のメカニズムに寄与している"との仮説を立て、AP-1遺伝子を変異させたマウスを用いて大腸がんの素地となる大腸炎、および大腸がん発がんの実験を行なった。 FosによるNF-κB抑制が破錠したFosKOマウスでは、DSS摂取によって大腸における炎症反応が野生型マウスより亢進していた。そこでマクロファージ特異的なFos欠損が、DSS誘導性大腸炎およびアゾキシメタン/DSS誘導性大腸がん発がんに寄与するかどうかの解析を行なうため、単球系前駆細胞のみでFosを欠損させたコンディショナルFosKOマウスを協同研究者と共に作成した。 129とC57BL/6Jの遺伝子背景を持つライソザイムM-CreマウスとFos^<flox/flox>マウスを交配し、対照群、コンディショナルFosKO群を用い、3.5%DSSを含む飲料水を一週間摂取させ大腸炎誘発実験を行なったところ、コンディショナルFosKO群は体重の減少が起こらなかった。さらに、アゾキシメタンを腹腔に単独投与した後に3.5%DSSを含む飲料水にて飼育し、大腸がん発がん実験を行なった結果、コンディショナルFosKO群は大腸がんの発生頻度は対照群と変わらないものの、より体積が大きいことが明らかとなった(Takada,投稿準備中)。 これらのことから、腸管上皮細胞のc-FosはNF-κBを抑制することにより大腸炎の発生を抑制していると考えられた。さらに、腸管マクロファージにおいてc-FosはNF-κBを抑制することにより大腸炎および大腸がんの進行を抑制していると考えられた。
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