B前駆細胞性急性リンパ性白血病(pre-B ALL)は小児の悪性新生物の中で発症率が最も高く、その成因の解明が急務である。BASHはB細胞初期分化に必要なpreBCRシグナル伝達因子であるが、BASH欠損マウスの約5%にpreBCR陽性のpre-B ALLが発症する。小児pre-B ALLの白血病細胞のBASH発現消失例も報告されている。本研究の目的は、BASHのプレB細胞の癌抑制因子としての作用機序、および癌化に必要なBASH欠損と共役する遺伝子異常を解明することにある。BASH欠損マウスおよびこのマウス由来のプレB白血病細胞(BKO細胞)を用いて以下のことがわかった。1)昨年度の研究から、BASHがSTAT5の上流のJak3の活性化を抑制することが明らかになった。他の受容体シグナル系でJakキナーゼの脱リン酸化を起こすチロシンフォスファターゼとしてCD45およびSHP1が報告されているので、これらがBASHにリクルートされてJak3を不活性化している可能性を考えた。しかし、siRNAによりこれらの発現を低下させたBKO細胞においてもBASHによるJakの不活性化および細胞増殖抑制は変わらなかった。免疫沈降実験よりBASHがJak3と結合することから、BASHによる直接的なJak3の活性化阻害が考えられた。2)BASH-/-マウスに活性型STAT5トランスジーンを導入すると高頻度でpre-B ALLを発症する。この白血病細胞にBASHを導入すると、細胞周期のG1停止は起こらずアポトーシスが起こった。よって、BASHが抑制するJak3の機能にはSTAT5を介した細胞周期の推進に加えて、抗アポトーシス作用があることが明らかになった。
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