研究概要 |
成人T細胞白血病(ATL)は、HTLV-1感染T細胞が長期潜伏期間の後、内在性遺伝子の多段階の変異により発症すると考えられているものの、そのメカニズムは不明である。私たちは、ATL患者T細胞においてPI3-kinase経路の負の調節分子群のPTENとSHIP-1の発現抑制によってPI3-kinase経路の過剰な亢進が起こり、ATL特有の多分葉核形成と細胞の異常増殖が誘導されることを報告した(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 102,15213-15218,2005)。本研究課題では、HTW-I由来のp40TaxによってPTENの発現抑制の誘導とp40TaxによるPTEN発現抑制を誘導する情報伝達経路について解析を行った。 共刺激により活性化した健常人由来末梢血T細胞(活性化T細胞)にp40Taxを導入し、細胞内PTENのタンパク量とmRNAの発現解析を行ったところ、いずれも有意に抑制されることが判明した。一般にp40TaxはNF-κBの活性化を誘導することから、NF-κB経路について解析を行った。活性化T細胞やp40Taxの発現を誘導可能なJPX細胞に、NF-κBのp65 subunitを導入してNF-κB経路を過剰に活性化させたところ、PTENの発現量はp40Taxを導入したときと同様に有意に抑制された。逆にp40Taxを高発現させた活性化T細胞やJPX細胞に、IKBΔN変異体を導入してNF-κB経路の活性化を阻害したところ、p40TaxのPTEN発現の抑制が阻害された。さらにp40Tax変異体でNF・出の活性化を誘導しない変異体を導入してPTENの発現抑制を解析したところ、p40Taxの導入で認められるPTEN発現の抑制活性は認められなかった。これらの結果から、p40TaxはNF-κB経路を介してPTENの発現抑制に関与していることが明らかになった。
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