研究概要 |
子宮頸部正常角化細胞にTERTを導入する事により不死化した細胞株(HCK1T)を樹立した。この細胞株を用いて多段階発がん過程をin vitroでの再現を試みている。まず、HCK1TにHPV16,18,31の環状ゲノムDNAをtransfectionし、HPV被感染細胞モデル細胞の樹立を試みた。これまでにHPV16をepisomalに維持する細胞の樹立に成功した。さらに、効率よくこのような細胞を樹立するため、HPVゲノムをloxPで挟んで線状にしたものをアデノウイルスベクターに組み込み、Creにより環状HPVゲノムが切り出されると共に薬剤耐性マーカーを発現するアデノウイルスを作製中である。一方、episomal HPV DNAの宿主DNAへの組み込み頻度をDNA-PK活性が規定している可能性を考え、in vitroでの検証を計画している。DNA-PK, Ku70,Ku86特異的shRNA発現レトロウイルスベクターを作製し、それらの効果を確認している。Ku70あるいはKu86のノックダウンによりKu86,Ku70もそれぞれ発現低下することが確認された。さらに、E6,E7高発現以降の多段階発がん機構の解析を進めている。HCK1Tや正常皮膚角化細胞にE6単独を高発現することにより分化抵抗性が獲得されたが、この活性にはE6によるp53分解を介したNotch1の転写抑制が関わっていることを見つけた。Notch1はp53の直接の標的であり、ガンマ線照射によりNotch1の増加と角化細胞分化マーカーの発現増加と分化に伴う増殖停止が確認された。これらの結果から、p53によるNotch1制御機構は生理学的にはUVなどDNA損傷ストレスに対する扁平上皮組織の防御機構として機能しているのではないかと推測している。また、HCKITに活性化rasおよびc-mycを導入した細胞ではがん幹細胞様の細胞株が樹立され、種々の幹細胞マーカーを発現し、200個の細胞接種でもヌードマウスに腫瘍を造った(6/6)。がん幹細胞の成立機序の解析やがん幹細胞を標的とした分子標的治療モデルとして有望と考えられる。
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