研究概要 |
本研究の目的は、消化管の炎症発がんとその進展における、糖転移酵素発現のエピジェネティックな制御機構を明らかにすることである。消化管上皮細胞ではがん化に伴い種々の糖鎖の発現パターンが変化することが知られているが、その機構は明らかではない。本研究では、正常消化管に発現し、癌転移能を規定する因子の一つであるSd^a糖鎖合成酵素活性が、がん組織において消失するメカニズムとして、糖転移酵素DNAメチル化異常を検証する。最終的にはヒト消化管におけるSd^a糖鎖の発現が、胃・大腸における炎症-発がん過程のどの段階でどのようなメカニズムにより減少・消失しているのかを明らかにする。 1.潰瘍性大腸炎でのSd^a糖鎖の発現:発がんの母地となっている消化管慢性炎症における、Sd^a糖鎖発現につき潰瘍性大腸炎の手術摘出標本より凍結切片を作製し、免疫染色により検討した結果、発現が顕著に低下している症例があった。 2.Sd^a合成酵素遺伝子(GalNAc転移酵素T2)のDNAメチル化異常検出法の確立と胃がん及び大腸がんの解析:BLAT検索で見出されたCpGアイランド領域のメチル化をCOBRA法にて検出する系を確立した。胃がん細胞株,大腸がん細胞株、並びに胃がん・大腸がん症例を対象として解析した結果、胃がん細胞株6株中5株、大腸癌細胞株9株中5株でSd^a合成酵素遺伝子の強いメチル化が認められた。胃がん症例では非常に頻度高くメチル化が検出され(78例中39例,50%)、大腸がん症例では比較的頻度は低かった(79例中8例,10%)。細胞株のSd^a合成酵素遺伝子のメチル化はbisulfiteシークエンス法によっても確認した。 3.潰瘍性大腸炎でのSd^a合成酵素遺伝子メチル化の検出:1の結果を受けて炎症性腸疾患にDNAメチル化状態の検討を開始した。Sd^a糖鎖発現低下に伴って高メチル化の検出される症例を認めている。
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