研究概要 |
細胞膜ラフトの破綻は細胞分化・増殖の異常を引き起こすとされ,癌化との関連についても多くの報告がある.しかし実験で頻用される界面活性剤不溶性浮遊画分(DRM)はラフトと等価ではなく,生細胞でのラフトの実体は明らかでない.本研究の目的は界面活性剤や化学的固定剤など細胞膜分子の動態に人工的な変化をもたらす可能性のある処理を行わずに膜分子の動態を超微形態レベルで捉える方法を確立し,癌細胞でのラフトについての確かな知見を得ることである.本年度の成果は以下のとおりである. 1)ラフト構成分子の超微局在を解析するための急速凍結・凍結割断レプリカ標識法(SDS-FRL法)について,保持効率(retention ratio),標識効率(capture ratio)を定量化する方法を確立した.両効率とも従来の免疫電顕法を遙かに凌駕する高い数値であり,この方法の有用性を示した. 2)ラフトの外葉と内葉の相関を可視化する方法の開発に向けて,基礎的な実験を行った.金箔上に培養した細胞を用い,液体ヘリウム温度で急速凍結した細胞の双面レプリカを作製する方法を開発した.しかし相補的なレプリカを得る効率は低く,多大な労力が必要である.細胞の培養基質について種々の材質を試し,高い効率で相補性レプリカを得る方法の開発を進めている. 3)ラフトへの集中が報告されているEGF受容体,PI(4,5)P2について,EGF刺激前後の細胞サンプルを用いて,超微局在について検討した.従来の結果から推測されているようなラフトへの集中は見られないことが明らかになった.次年度の研究では細胞凍結方法についても改良を進める予定である.
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