細胞は癌化に伴い、増殖制御の破錠とともに細胞間接着能が消失し、運動能の亢進を惹起する。すなわち、細胞癌化および浸潤転移の解析には細胞基本特性の理解が不可欠である。低分子量G蛋白質Rhoはアクチン細胞骨格を制御し、細胞増殖及び運動・接着に働く。その異常は、細胞悪性化とがん細胞の運動能亢進と関係すると考えられているが、その分子機序には不明な点も多い。本研究の成果は、Rho標的分子mDia1がv-Srcによる細胞悪性化への寄与を見出した。野生型、mDia1欠損マウスからMEF (mouse embryonic fibroblast)を調製し、温度感受性v-Src安定発現株を樹立した。mDia1欠損v-Src発現株では、Src特有な細胞形態を呈さず、v-Srcによる足場非依存性増殖及びfociformationが著しく阻害された。また、これらをヌードマウスに皮下移植したところ、mDia1欠損v-Src発現株は造腫瘍能・浸潤性が、野生型株と比して、低下することを見出した。次いで、細胞質分裂は染色体分離後の染色体を正しく娘細胞に継承するステップであり、その失敗は染色体数異数化・中心体増加など発癌につながりうる。RNAi法によりmDia枯渇させたところ、mDia2 RNAiが細胞質分裂を阻害した。mDia2は、分裂期後期より分裂溝に局在し、細胞質分裂終期で娘細胞間橋に蓄積する。また、mDia2 RNAiにより分裂細胞中央部以外の異常部位で収縮が誘発される。Myosin II依存性収縮を薬剤で抑制したmDia2 RNAi細胞では、中央部皮質でのF-actin輝度の低下を認め、その他の分裂溝構成成分は中央部表層に集積した。以上よりmDia2が分裂溝に集積しアクチン繊維の産生を行い、分裂溝構成蛋白質群、またはこれら分子複合体が分裂溝に維持され、細胞質分裂が遂行されることが示唆された。
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