研究概要 |
1.抗がん薬の標的分子であるファルネシルトランスフェラーゼ(FT)活性の部分的低下は,下流のRho経路とRas経路に対して異なる影響を与えることを発見した:マップキナーゼ経路の新規制御因子を同定するために,分裂酵母モデル系を用いた遺伝学的スクリーニングを行った。その結果,FTをコードするcpp1^+遺伝子の変異体を単離した。この変異体では155番目のアミノ酸であるアスパラギン酸がアスパラギンに代わっており,その活性が部分的に低下していた。生化学的解析により,Rho2,Rho3,Ras1の3つの低分子量Gタンパク質がCpp1によりファルネシル化されることがわかったが,上記のD155N変異による活性の部分低下によって,Rho2/PKC/MAP kinase系の活性が著しく低下するのに比べて,Ras1の活性の低下は軽微であった。FT活性の部分低下がRho2経路とRas1経路に異なる影響を与えたことは,抗がん薬としてFT阻害薬を用いた場合に経路選択的な効果が期待されることを示唆している。 上記と同様のスクリーニング系を用いて企業との共同研究によりマップキナーゼに対して抑制的に働く薬物を探索中である。2つの薬物を同定し,1つは新規薬物でありその構造も決定した。現在は1つの薬物の有機合成と作用点決定およびもう1つの薬物の構造決定を行っている。 2.バルプロ酸(VPA)が細胞内輸送に影響を与えることを発見した:VPAは抗てんかん薬として古くから知られており,最近はがん化学療法の奏功性をあげることが報告されているが,そのメカニズムについては不明である。VPA感受性を示す変異体を単離し,その原因遺伝子を決定したところ細胞内輸送で重要な働きをするVps45をコードする遺伝子だった。さらに,様々な解析により,治療濃度に相当する低濃度のVPAが分泌などの細胞内輸送に影響を与えることを発見した。
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