研究概要 |
本研究計画は1)がんのTGFβ抵抗性とS100A11機能との関連を明らかにする、2)S100A11のAnnexinA1との結合、ヒトがんでの発現充進の意味を明らかにする、3)この知見を治療に応用する、ことを目的とする。平成18年度は1)について報告した。平成19年度は主に2)に取り組み、以下の結果を得た。 1.正常ヒト表皮角化細胞(NHK)において、S100A11はAnnexin A1と複合体を形成しPhospholipase A2と結合してその活性を抑制した。その結果アラキドン酸カスケードが抑制されて細胞増殖が低下した。EGFという増殖刺激が入るとphospholipase A2活性抑制の解除が起こって細胞増殖が維持される。即ち、TGFβとEGFというシグナル系がS100A11を接点として関連する。(J Biol Chem 282:35679-86,2007) 3.NHKはS100A11を分泌し、分泌型SIOOA11はNHKの増殖を促進した。この増殖促進は主にEGFファミリーの産生誘導によった。S100A11はRAGE、NFkBとAkt、CREBを介してEGF遺伝子を活性化した。即ち、S100A11は、細胞内では増殖抑制、分泌されると増殖促進という二面性の役割を担う。(Mol Biol Cell 19:78-85,2008) 4.S100A8とS100A9がNHKから分泌され、NHKに作用して炎症性サイトカインの産生・分泌を誘導する、それが逆にS100A8,S100A9の産生・分泌を促進する、S100A8/A9自体がNHKに対する増殖促進作用を持つ、ことを見出した(J Cell Biochem印刷中)。 以上の成果によって、S100C/A11の機能的ハブとしての本態の解明に大きな展開が得られた。今後は、SIOOタンパク質群の受容体RAGEの作動機構の本態の解析を通じて治療戦略の構築を目指す。
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