小胞体(ER)ストレスに対する反応は、タンパクや細胞の質のチェック機構として作用し、過剰なERストレスは細胞死を引き起こすが、ERストレスによる細胞死の詳細な分子メカニズムは不明である。本研究では、Apaf1分子に依存するミトコンドリアを介したアポトーシス誘導機構とERストレスによる細胞死誘導機構との相互関係を明らかにすることを目標とし、Apaf1欠損細胞を用いた研究から、ERストレスは、Apaf1/ミトコンドリアに依存した経路の活性化によりアポトーシスを誘導することを明らかにした。これまで報告があったカスパーゼ12の関与は、限定的であるか、ERストレス依存性細胞死にほとんど関与していないこと、また、ERストレスに伴ってBaxがミトコンドリアに移行することによりミトコンドリアからのシトクロムcの放出を誘導することも明らかにした。細胞死誘導におけるERの関与に関して、正常の細胞においては、P53の活性化によりERからのカルシウムの放出とこれに引き続くカスパーゼの活性化が、Pumaのミトコンドリアへの移行を誘導し、アポトーシスを引き起こすことを明らかにした一方で、EIAを発現する形質転換細胞においては、同じERからのカルシウム放出がPumaでなくNoxaのミトコンドリアへの移行を誘導することを明らかにした。これらの結果は、正常細胞とがん細胞との間で、p53から細胞死に至る経路に関与する分子が異なっていることを示し、がん治療の分子標的を考える上で重要な情報をもたらしている。 一方、Apaf1欠損マウスの解析において、Apaf1分子を欠損していても外見上正常に成長し、形態的にも、また各臓器の機能面からも異常を認めないマウスの存在を報告した。このことは、Apaf1に依存しない新しい細胞死が、発生過程における細胞死を制御している可能性を示しており、現在この解析を行っている。
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