我々はNSAIDsの抗癌メカニズムの解明を目指し、DNAチップを用いて、NSAIDsにより誘導される遺伝子を網羅的に同定し、様々な新しいメカニズムを見出してきた。この一連の研究の中で我々は、NSAIDsがクロージン4を誘導すること、及びこの誘導が癌の転移・浸潤の抑制を介して、NSAIDsの抗癌作用に寄与していることを示唆した。クロージン4はタイトジャンクション(TJ)を構成するクロージンファミリーの一つである。TJが癌細胞の浸潤に対するバリアになっていること、及び癌細胞で各クロージンの発現が変化していることなどから、TJが細胞の癌化、及び悪性化と深い関連があることは知られていたが、NSAIDsとTJとの関連を示したのはこれが初めてである。またこれまで癌との関連については、TJの機能面(バリア機能など)に関する研究が多く、クロージンの発現との関連を示した点でも本研究は新しい。一方最近我々は、NSAIDsがクロージン2の発現を逆に抑制すること、及びこの抑制も癌の転移・浸潤の抑制を介して、NSAIDsの抗癌作用に寄与していることを示唆した。今後は、全てのクロージン(24種)を対象に、NSAIDsにより発現が変化するのか、その発現変化が浸潤性、運動性、足場非依存的な増殖など癌の特性、及びTJの機能(癌細胞の浸潤に対するバリア機能など)をどのように影響するのか、及びこれらの癌の特性変化がin vivoにおける癌の増殖、浸潤、転移にどのような影響を及ぼすのかを解析し、NSAIDs、癌の特性、クロージン、3者の関係の全体像を明らかにする。
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