研究概要 |
私共はRasファミリー蛋白質Rap2のエフェクターとしてHGK、TNIK、MINKを同定したが、これらはMAPKKKキナーゼ(MAP4K)としてJNKやp38を制御することから、Rap2はMAPキナーゼ経路を介して細胞分化に関与する可能性が高い。一方、TNIKがJNKと独立に細胞基質接着を制御することも見出しており、Rap2は未知のシグナル経路を介してがん細胞の異常形質に関与すると考えている。Rap2とがん細胞の分化異常の関連を明らかにするため、(1)未知のシグナル経路の解析、(2)がん細胞における解析、(3)遺伝学的解析を進めた。その結果、(1)で見出した新規MAP4K結合蛋白質の一つは、ショウジョウバエRolsの哺乳類ホモログで、TNIKのリン酸化標的蛋白質でもあった。この分子は細胞極性、細胞間接着に関与する癌抑制遺伝子産物DLG1のPDZドメインに結合する。DLG1は上皮細胞の細胞間接着部位に集積するが、(2)の解析ではこの分子も扁平上皮癌細胞株の細胞間接着部位にRap2、TNIK、DLG1と共局在した。この癌細胞ではTNIKの過剰発現により細胞間接着と細胞極性の喪失が認められた。(3)Rap2A,B,CおよびTNIKのコンディショナルノックアウトマウス作成を進めた。Rap2Bは、germ-line transmissionマウスと野生型マウスの仔としてヘテロマウスを得た。現在、コンディショナルノックアウトの前に全身でCre組換え酵素を発現するマウスとの交配によるnullマウスの作成を行っている。Rap2A,CおよびTNIKについても作業を進めている。また、Rap2A,B,Cは相同性が高く識別できる抗体が無かったため、比較的相同性の低いC末端領域を抗原として抗血清を得、アフィニティー精製により特異抗体を作成した。
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