研究課題
サイクリンD1(D1)は細胞の足場非依存性増殖を誘導し、ヒトがん化過程にも関与するがん遺伝子であり、遺伝子破壊マウスの解析より血球(幹)系細胞の増殖、及びras、neuなどのがん遺伝子による発がん過程に必須であることが明らかとなった。我々は本課題の背景として、D1の機能発現に重要な核局在が接着に依存していることを見出した。本年度はそのメカニズムと細胞のがん化における意義について検討を加えた。その結果、D1のCRM1による核外排出過程に関して、細胞接着斑と核間をシャトルしているHic-5タンパク質が拮抗的に働き、その結果、接着細胞内ではD1の核外排出が阻害されて核に局在化する可能性が示された。一方、浮遊状態ではHic-5のシャトル能が消失する結果、D1の核外排出に対するHic-5の拮抗作用が解除され、D1が核から排出されることがわかった。また、浮遊状態では細胞内の活性酸素(ROS)産生が促進されること、及びHic-5のシャトル能について、そのレドックス感受性を担う特異的システイン残基に変異を導入すると浮遊状態でもシャトル能が維持されることを見出した。したがって、浮遊状態下ではROSが産生され、そのRosがHic-5の特異的なシステイン残基を修飾してシャトル機能を阻害する結果、浮遊状態ではD1が核から排出されるがことが考えられた。次いで、この浮遊状態でのHic-5シャトル能の喪失とそれに伴うD1の核外排出の意義について、恒常的シャトル型(システイン変異導入)Hic-5を細胞内に発現させて細胞を浮遊状態に置いたところ、D1の核局在が上昇し、さらに細胞周期の進行とDNA合成、細胞の生存率の上昇がみられた。以上の結果から、Hic-5のシャトル能によるD1核局在の接着依存性の制御機構は、浮遊状態でのD1の核局在を阻止し、細胞の異常増殖と生存を阻止する安全装置の一つであると考えられた。
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Oncogene. (in press)
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