研究概要 |
がんの85%以上は上皮系の組織より発生し、上皮系のがんの多くが組織幹細胞に由来することが示唆されている。申請者らはイノシトールリン脂質代謝の要の酵素であるホスホリパーゼC(PLC)の中でも、PLCδ1は極性のある上皮細胞に発現が非常に多いこと、PLCδ1遺伝子欠損(KO)マウスは皮膚上皮系幹細胞の分化異常により皮膚腫瘍を形成することを報告している。本申請では、イノシトールリン脂質代謝が、どの様なメカニズムで皮膚上皮系幹細胞の増殖と分化の方向性の決定および分化異常と癌の形成に関わっているのかを明らかにすることを目的とした。 PLCδ1KOマウスでは皮膚の肥厚が観察されるが、こうした皮膚の肥厚と炎症やがんとの関連性が示唆されていることから、第一に、PLCδ1と炎症との関連性を検討した。まずPLCδ1KOマウス皮膚の切片を作製し、免疫性細胞であるマクロファージ、顆粒細胞、T細胞数を免疫組織学的に調べた所、PLCδ1KOマウス皮膚では4〜5倍のこうした免疫性細胞が存在していることが明らかになった。更に炎症性のサイトカインであるIL-1β,IL-6,MMP-9の量をRT-PCRにより比較検討した所、PLCδ1KOマウス皮膚で、有為に増加していることが判明した。こうした事実はPLCδ1の欠損が炎症反応を誘導していることを示すものである。 第二に、上皮細胞の極性形成におけるリン脂質の役割の解明を行った。上皮系がん細胞である乳癌細胞を用いて、浸潤突起形成におけるリン脂質の重要性を検討した所、PIP2が浸潤突起部位に非常に多く局在していることが判明した。
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