研究概要 |
大腸がんや腎がん、前立腺がんなどについて手術摘出標本を用いて、Real time PCRや酵素活性測定により、形質膜シアリダーゼ(NEU3)が異常に高発現していることを詳細に検証した。その結果、NEU3が細胞接着や浸潤・運動等のシグナリングについても制御しており、がんで活性化するFAK, Shc, integrin β4等のシグナル分子の活性化やIL-6シグナリングを促進し、がんの悪性形質を助長していることが明らかになった。また、NEU3はRasの活性化を促進すること、siRNAを導入すると、Rasの活性化を阻害し、がん細胞が特別の刺激もなく自ら細胞死に陥ること、正常細胞ではこの現象が見られないことがわかった。NEU3はがん細胞の生死を左右する因子であることがわかったので、その分子機構を詳細に検討した。 NEU3がEGFR等のリン酸化を促進することによってRasの活性化をもたらし、細胞死を抑制していることが示されたので、酵素の触媒作用およびシグナル分子との相互作用というふたつの観点から、NEU3によるEGFRのリン酸化の促進機構を調べた。NEU3の酵素反応産物であるラクトシルセラミドの蓄積およびNEU3蛋白とEGFRとの結合が必要である可能性が示唆された。一方、NEU3はEGFRだけでなく、METのリン酸化亢進やWNTシグナルの活性化など、がんの悪性度や増殖に関連する複数の分子の活性化をもたらすことが分かってきた。さらに、NEU3のトランスジェニックマウスにがん原物質であるアゾキシメタンを投与すると、前がん病変とされるACF (Aberrant crypt foci)形成が対照マウスに比べて有意に促進することがわかった。
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