本年度はヒト悪性胸膜中皮腫のcell lineを用いて、NSAIDsの悪性胸膜中皮腫に対するin vitroでの増殖抑制効果を検証した。いくつかのcell lineについて、メロキシカム、インドメタシン、アスピリンについて用量抑制曲線を求めた。ATCC5820株においてはその抑制の強度は、インドメタシン=メロキシカム>アスピリンの順であり、ATCC5915株においてはインドメタシン>メロキシカム>アスピリンの順であった。また、ATCC5946株ではインドメタシン=メロキシカム>アスピリンの順であった。持続的な予防投与を考えると、副作用の面でCOX-2の選択的阻害薬であるメロキシカムを長期持続投与が悪性胸膜中皮腫に有効である可能性が示唆されたものと考える。 悪性胸膜中皮腫はその成り立ちより、その発症に炎症が深くかかわっている悪性腫瘍である。そこで、炎症時に産生されるサイトカインのうち最も重要なものの一つであるインターロイキン-1β(IL-1β)の遺伝子多型と肺癌発症との関係を調べた。IL-1βの遺伝子多型のうち-511 SNPのT-CアリルがIL-1βの産生と深くかかわっていることが解かっており、その多型と肺癌発症との関係について調べた。まず-511SNPがT/CはT/Tの2.4倍、さらにC/CはT/Tの3.8倍肺癌の発症の相対危険度が増加していた。さらにこの解析を非小細胞肺癌と小細胞肺癌に分けて行ったところ、非小細胞肺癌においてはT/CがT/Tの2.4倍、C/CははT/Tの3.8倍と肺癌全体と同じであった。小細胞肺癌においてはT/CがT/Tの2.5倍、C/CははT/Tの4.2倍と数値的にはさらに相対危険度が高くなる傾向を示したが、例数が少なくp値は大きくなった。以上のことより、IL-1βの遺伝子-511 SNPがTであることが肺癌の発症に大きく関わっていることが示唆された。このことは肺癌の発症に持続性の炎症が関わっていることを示唆し、悪性胸膜中皮腫も広義の肺癌の一種であるので、、非ステロイド系の抗炎症薬であるCOX-2阻害剤を予防投与することの意義がこの遺伝子多型解析からも裏付けられる結果となった。
|