探索的モデル研究により肥満の状態と癌の発症とが関連があることが示唆された。そこで我々は肥満細胞から放出されるadiponectinが癌を抑制しており、肥満によりその産生が低下することは悪性中皮腫発症の要因であることを仮説としてあげ、adiponectinと悪性中皮腫発症の関係に対して研究した。Adiponectinはその用量依存性に、調査した3種の全ての胸膜中皮腫のcell lineで増殖を抑制した。また、Adiponectinの投与により胸膜中皮腫細胞においてアポト-シスが誘導された。また様々な腫瘍において悪性度とともに増加するcyclooxygenase-2(COX-2)が、胸膜中皮腫細胞においてAdiponectin投与により、減少することが判明した。それとともに胸膜中皮腫のプロスタグランジンE2の産生も抑制された。この細胞内メカニズムを調べるために、adiponectin刺激によるAMP-activated protein kinase (AMPK)を調べたところ、adiponectinの用量依存性に胸膜中皮腫細胞内のAMPKが抑制されていくことが発見された。このadipinectinの悪性胸膜中皮腫の抑制作用はadiponectinの2つの受容体のうちどちらを介しているのかをsiRNAによりノックダウンをして調べた。そうすると、このadipinectinの悪性胸膜中皮腫の抑制作用はadiponectin receptor 1を介していることが判明した。以上のことより、アスベスト暴露歴がある患者さんは生活習慣をしっかり管理して肥満を予防することが、悪性胸膜中皮腫の予防に繋がることが示唆された。
|