本研究においては、白血病の治癒を得るために、チロシンキナーゼ阻害剤を含む併用療法を分子基盤に基づき適切に選択する上でのサロゲートマーカーを確立することを目的として検討を行い、下記の成果を得た。 1.チロシンキナーゼ阻害剤の標的分子阻害効果をin vitroで評価するにあたり、ヒト血漿中蛋白との結合により、フリー体としての阻害剤濃度が低下することによる阻害活性に及ぼす影響を考慮する必要性が指摘されている。中でも主たる結合物質であるアルブミンとα1-acid-glycoprotein (AGP)濃度の阻害活性に及ぼす影響を検討したところ、多くのチロシンキナーゼ阻害剤においてAGPが濃度依存性に阻害活性を低下させることを明らかにした。担がん患者、特に白血病患者における血中AGP濃度は健常人の2倍以上に上昇しているとの報告があることより、現在、イマチニブにより治療中の慢性白血病患者におけるAGP濃度、イマチニブ血中濃度と治療効果との相関性につき多数例での検討を開始した。 2.チロシンキナーゼ阻害剤の併用による治療効果を評価するために、イマチニブ治療中の患者血漿を用いて標的分子に対する阻害活性を評価するplasma inhibitory activity (PIA)アッセイを確立した。 3.PIAアッセイにより、BCR/ABL、CrkL、STAT5、MAPKに対する脱リン酸化効果を評価したところ、細胞増殖抑制効果と最も相関し、かつ最も鋭敏な評価系としてはSTAT5に対する阻害効果であることが示されたが、細胞種類によっては、CrkLへの効果が有用であることが明らかになった。 4.以上の検討によりイマチニブ治療中の患者に対する併用療法の評価においては、PIAアッセイにより評価する必要性が示された。
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