研究概要 |
(1)2000-2005年に本邦の5大学、中国医科大学、延世大学医学部(ソウル)の耳鼻科を受診した鼻腔NK/T細胞リンパ腫と対照患者につき、農薬を含む生活環境要因と疾患発生との関連を明らかにすることを目的として、症例、対照研究を行った。88症例と305対照例(耳鼻科領域の非腫瘍性疾患患者)が集まった。解析の結果、オッヅ比(OR)の高かったものは農業従業者、穀物栽培者、農薬使用者、ゴミ焼却場近くに住んでいる人であった。穀物栽培者のうち手袋や眼鏡を使用したり、風下に向けて撒布することにより農薬への曝露を減少させている人ではORが低くなった。以上の結果は農薬や化学溶媒への曝露が本疾患発生の危険要因であることを示している(Int J Cancer 2006)。 (2)鼻腔NK/T細胞リンパ腫(NKTCL)は複雑な核型異常を示すことから、染色体不安定性が存在するものと考えられる。そこで、NKTCLの臨床サンプルと培養細胞を用いてDNArepair遺伝子の一つであるATR変異について検討した。ATRは8細胞株のうち2株に、又、10例の臨床サンプル中4例について変異が確認された。変異を有するATR細胞株はDNA二重鎖、一重鎖切断からの修復遅延がみられた。このことはATR変異がNKTCLの発症要因となりうることを示している。 (3)インドネシアの27例のNKTCLと14例の鼻腔B細胞リンパ腫(NBCL)についてp53,K-ras,c-kit,-(catenin,bak遺伝子の変異をPCR-SSCP法とダイレクトシークエンスにより検討した。NKTCLの約85%はEBウィルスゲノムが陽性であるがNBCLは全例陰性であった。遺伝子変異はNBCLでNKTCLよりも高い傾向にあった。このことはNBCLでは遺伝子変異がNKTCLではEBウィルスが発生に重要であることを示唆している(Oncol Rep 2006)。 現在、NKTCL,Burkitリンパ腫細胞株を用いて農薬の影響を検討中である。
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