本研究の目的は、大腸がんの症例対照研究において収集された調査資料とDNA試料を用いて、機能が知られている遺伝子多型の解析をおこない、大腸発がんにおける喫煙、飲酒、肥満、食物栄養などの生活習慣要因の役割を明らかにすることである。DNA試料が保管されている大腸がん患者685名と一般住民対照778名を対象として、アルコール脱水素酵素ADH2のArg47His多型およびADH3のIle349Val多型ならびにアルデヒド脱水素酵素ALDH2のGlu487Lys多型について大腸がんリスクとの関連および飲酒との相互作用を検討した。ADH3変異アレルは欧米人では頻度が高いが、アジア人では少ない。一方、ADH2とALDH2の変異アレルはアジア人には多く、これらの遺伝子多型の影響を見る上で本研究はきわめて好都合である。飲酒の影響はいずれの遺伝子多型とも相互作用を示さず、日本酒換算で一日2合以上の飲酒は大腸がんリスクの中等度の高まりと関連していた。ADH2については低活性のArgアレルを有する者で大腸がんリスクの高まりが見られた。この知見は解釈が難しいが、わが国で昨年報告された結果を支持するもので興味深い。ADH3については明らかな関連は見られなかった。ALDH2ホモ変異型(アルデヒド代謝活性欠損型)で統計学的に優位な大腸がんリスクの低下が見られた。これらの結果はアルコールによる大腸発がんには腸内細菌によるアセトアルデヒド産生の関与が大きいと考えられる。 さらに、遺伝子多型との相互作用を検討することを念頭において、肥満、運動、食物・栄養要因と大腸がんとの関連を検討した。肥満、運動不足が特に遠位結腸がんおよび直腸がんと強く関連していること、n-3系脂肪酸ならびにカルシウムの高摂取が大腸がんに予防的であることを示す結果が得られた。
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