本研究の目的は、大腸がんの症例対照研究において収集された調査資料とDNA試料を用いて、機能が知られている遺伝子多型の解析をおこない、大腸発がんにおける喫煙、飲酒、肥満、食物栄養などの生活習慣要因の役割を明らかにすることである。大腸がん患者685名と一般住民対照778名を対象として、ニトロソ化合物の代謝活性化酵素であるCYP2E1の機能的遺伝子多型と飲酒、肥満、赤身肉(牛豚肉、ハム・ソーセージ)との相互作用を検討した。解析した遺伝子多型はプロモーター領域のRsaI多型(C-1054T)と96-bp挿入多型である。RsaIの変異型c2アレル(-1054T)では酵素活性が低下しており、一方96-bp挿入アレルは高い酵素活性と関連していることが指摘されている。RsaI c2アレルと関連した直腸がんリスクの高まり並びに96-bp挿入アレルと関連した直腸がんリスクの高まりが観察された。また、96-bp挿入ホモ接合体では結腸がんリスクの2倍の高まりが見られた。2つの多型の組み合わせの検討では、Rsal c2アレルよりも96-bp挿入アレルの影響が重要であることを示す結果が得られた。しかし、飲酒及び赤身肉と関連した大腸がんリスクの高まりは変異型アレルの特定の組み合わせでのみ観察された。飲酒と大腸がんリスクとの関連は、いずれの変異型アレルも持たない者でのみ観察され(傾向性P=0.002)、赤身肉と関連した大腸リスクの高まりはRsaIc2アレルと96-bp挿入アレルを有する者でのみ観察された(傾向性P=0.06)。これらの多型と肥満との交互作用は見られなかった。飲酒、赤身肉の大腸がんリスクの高まりはCYP2E 1を介した機序が考えられる。
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