cDNAマイクロアレイ解析により、正常組織では脂肪組織、乳腺、卵巣、脊髄、精巣、子宮、胎盤などに軽度に発現しているが、スキルス胃癌、膵臓癌、大腸癌および胃腺癌において高発現する遺伝子として、Secreted protein acidic and rich in cysteine(SPARC)を同定した。同様の遺伝子発現の組織特異性が、RT-PCRおよびノザン解析により確認された。SPARCは303個のアミノ酸により構成される分泌蛋白質であり、細胞外基質蛋白質と細胞との相互作用を調節することにより、組織の修復、再構築や細胞増殖に関与すると考えられており、メラノーマや骨肉腫などの腫瘍細胞および膵癌、胃癌などの腫瘍の間質細胞に高発現することが報告されている。 ヒトとマウスのSPARCでアミノ酸配列が共通しているペプチドで、HLA-A24およびH2-K^dに共通したモチーフを持つものを4種類合成し、これらを負荷した骨髄由来樹状細胞(BMDC)を、BALB/cマウスの腹腔内に2回免疫した後に脾細胞を回収し、ペプチド特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導を検討した。このうち2種類のペプチドがBALB/cマウスにおいて、自己免疫現象を伴うことなく、K^d拘束性にSPARC陽性細胞株を傷害するSPARCペプチド特異的CTLを誘導できることを明らかにした。さらに、同様にペプチドを負荷したBMDCを投与した後に、SPARCを高発現する細胞株を移植し、抗腫瘍効果を検討したところ、腫瘍の増殖が80%のマウスにおいて抑制され、生存期間の延長を誘導することができた。またHLA-A2(A*0201)トランスジェニックマウスを利用して、HLA-A2拘束性にマウスのキラーT細胞を誘導する、SPARC由来のペプチドを2種類同定し、さらにそのうちの1種類のペプチドがヒトキラーT細胞を誘導できることを確認した。以上より、SPARCを標的とした免疫療法の可能性が示された。
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