癌はゲノムに生じた様々な変異が蓄積することにより、発症すると考えられるが、肺癌をはじめとする固形腫瘍においては、ゲノムはしばしば複雑な異常を認めること、また高精度な細胞遺伝学的な解析が一般に困難であることから、こうしたゲノム異常の詳細はなお不明である。そこで、本研究では、近年開発された高密度SNPアレイを用いて、肺癌ゲノムに生ずる異常を高解像度かつ網羅的に解析することにより、肺癌で共通に認めるゲノム変異を探索し、それらの遺伝子標的を同定することにより、肺癌の発症メカニズムの解明と、新たな分子標的薬剤・分子診断技術のターゲットとなる遺伝子異常の同定を試みる。本年度は、72例の肺癌試料について、Affymetrix GeneChip 250K Nspアレイによる解析を行い、東京大学の小川らにより開発されたCNAG/AsCNARアルゴリズムを用いて解析した。これらの肺癌検体はしばしば高度の正常細胞の混入をみとめ、また自己正常DNAを得ることができなかったが、 CANG/AsCNARを用いた解析では、自己正常DNAを用いることなく、高度の正常細胞の混入を認める試料についても、高感度かつ高解像度にゲノムコピー数異常・アレル不均衡の網羅的な解析が可能であった。予測されたとおり、肺癌ゲノムはしばしば複雑なゲノム異常を呈したが、これら72例の解析において、肺癌はそのゲノム異常のパターンから共通するいくつかのサブタイプに分類することが可能であった。ゲノムの高度増幅、ホモ接合性欠失とともに、従来のマイクロサテライト解析等では検出不可能と思われるLOHが同定され、また、異なる症例で共通して認められる異常も複数同定された。これらの領域については、肺癌の発症に関わる遺伝子が存在するこ とが予測されことから、現在、異常の標的となる遺伝子の探索を進めており、今後肺癌の新たな分子治療薬・診断技術のターゲットとなる分子の同定が期待される。
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