研究概要 |
埼玉コーホート研究と原爆被爆者免疫コーホート研究を統合して、免疫、炎症、放射線被曝、発がんの関係を明らかにするのが本研究の目標である。我々は先に、原爆被爆者免疫コーホートを対象に突然変異性の指標である赤血球GPA変異率を測定し、その後の追跡調査により、GPA変異率の被曝線量による増加勾配ががん罹患群では非罹患群に比べ顕著に大きいことを報告した(Cancer Res,2005)。この研究成果をさらに発展させるため、本年度は次の2つの生体指標の測定系を確立した。すなわち、X線を照射した培養Tリンパ球のγH2AX fociを測定するin vitroの系により、放射線感受性の個人差を検討する。また、放射線誘発遺伝的不安定性の測定系として、放射線被曝後長期間経過しても観察される循環網状赤血球の小核形成をマウスモデルにより検討した。次年度に、原爆被爆者を対象とした予備的解析を開始する。さらに、原爆被爆者免疫研究では、放射線被曝と炎症性免疫の関係を先に報告した(Am J Med,2005)。炎症と発がんの関係を検討するため、血清(血漿)中の活性酸素代謝産物の総量を測定する系を確立した。疫学・炎症指標データと合わせて原爆被爆者の発がんとの関連を検討する予定である。これらの研究ではゲノム解析と連動して遺伝的要因の探求も行う。埼玉コーホート研究により、NK活性の主たる遺伝的要因が活性型受容体NKG2D遺伝子領域のハプロタイプであり、発がんリスクとも関係することを先に報告した(Cancer Res,2006)。現在、原爆被爆者免疫コーホートにおいてNKG2Dハプロタイプの検討を進めている。ハプロタイプの分布は年齢・被爆線量によって変動しており、かつ、こうした現象が特定の遺伝子に限定されることから、このコーホート集団に作用したsurvival pressureを反映している可能性があり、慎重に解析を進めている。
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