研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリ菌感染による胃発癌や,肝炎ウイルス感染による肝発癌などの例より,炎症は発癌との因果関係が明らかな生体内因子のひとつである.申請者は,β2インテグリンを介した好中球の浸出が癌悪性化に必須であることを見いだした.この知見を発端として好中球浸出に関わるLFA1分子との結合を阻止する薬剤を探索するin vitroアッセイ系を構築した.これは,96穴プレートに増殖させたTNF-alpha刺激培養血管内皮細胞上に異物移入によって浸出するマウス腹腔細胞を蛍光標識後に重層培養し,その蛍光量を指標として炎症細胞の血管内皮への接着および浸出の程度を定量化するスクリーニングアッセイ系である.がん特定領域・統合がん化学療法基盤情報支援班より提供を受けた標準阻害剤をこのスクリーニングアッセイ系を用いて解析した結果,約25種に炎症細胞の接着抑制効果を,約7種類に接着促進効果を見いだした.これらの阻害剤の中には,炎症細胞の運動能等の抑制に関わることが報告されている化合物を含むことから,本アッセイ系の汎用性が確認された.さらに,阻害剤の中でも抗高コレステロール血症薬ロヴァスタチンに高い浸出阻害効果を見いだした.現在,ロヴァスタチンのLFA1ドメインI分子との結合相互作用部位を,高速分子動力学専用計算機「MDGRAPE-3」を用いた分子シミュレーションにより類推し,リード化合物の薬剤ライブラリーから最適な化合物を選定する作業を遂行中である.これより選定されてくる候補化合物の予想順位に従い,申請者らが既に確立した異物(ゼラチンスポンジ等)の移入を契機として生じる炎症反応を介した発癌・悪性化進展モデルを用いて,候補化合物の生体内効果の検証にあたる.
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