研究課題
リゾ脂質性シグナル分子であるリゾホスファチジン酸(LPA)が癌細胞の増殖、転移に極めて重要な因子であることが知られている。したがって、LPA受容体アンタゴニストは新しい抗がん剤となることが期待されてきた。我々はキリンビールと共同して15万種の化合物からLPAアンタゴニストKi16425の開発に成功した。一方、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)はLPAの細胞遊走活性を抑制する。本研究では膵臓がん細胞、グリオーマなど浸潤、転移能の高いがん細胞を用い、細胞増殖、浸潤、転移などに対する作用を調べ、そのLPA作用に対するLPA受容体アンタゴニスト、S1Pの抗がん剤としての有用性を解析した。その結果、(1)グリオーマ、膵臓がん細胞において、特異的siRNAを用い解析したところ、細胞遊走はLPA1受容体を介していることが判明した。また、低分子G蛋白質、MAPKなどに対するドミナントネガティブ分子、基質となる細胞内シグナル分子の過剰発現、また、特異的阻害剤などを用い解析した結果、Rac, CDC42, p38MAPK, JNKなどの関与が示唆された。(2)これらの癌細胞におけるLPAの細胞遊走作用はS1PまたKi16425で著明に抑制された。S1Pの抑制作用はsiRNAを用いた解析からS1P2受容体を介し、Rac経路を抑制していることが推定された。(3)マトリゲルでコートしたインビトロ浸潤アッセイシステムにおいて、LPAによる浸潤活性をKi16425は著明に抑制した。(4)膵臓癌細胞YAPC-PDを腹腔内に投与すると腹膜播種が観察される。この作用はKi16425の投与でわずかながら抑制傾向が観察された。今後、さらに条件の設定が必要である。このように、LPA受容体を介した細胞遊走、浸潤の細胞内シグナル経路の大筋を明らかにした。また、LPA受容体アンタゴニスト、S1Pが少なくもin vitroで有効であることが示された。このようにLPA受容体シグナル経路を標的とした治療戦略の有効性が示唆された。
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