研究概要 |
ウイルスの特性を利用して、新たな癌治療法を開発するための研究が近年精力的に進められている。我々は弱毒化した単純ヘルペスウイルスを用いたOncolytic Virotherapy(腫瘍溶解性ウイルス療法)の開発研究を行い、HF10と名付けたウイルスが優れた腫瘍溶解作用を示すことを見出した。本研究ではHF10の特性、抗腫瘍作用についてさらに検討を行うとともに、抗腫瘍作用を増強するための工夫を行った。1,マウス悪性黒色腫細胞cloneM3を用いた皮下腫瘍モデルにおいてHF10の抗腫瘍効果を検討した。HF10接種群ではコントロール群と比較して、皮下腫瘍の増大抑制効果が顕著に認められた。組織学的には腫瘍細胞の変性像とともに、接種部位に一致して多数の炎症細胞の浸潤が観察された。ウイルス抗原を用いた免疫組織化学染色では、ウイルス抗原陽性細胞がHF10接種後7日目まで観察できた。またウイルス抗原は、腫瘍部のみに限局して存在していた。背部両側に皮下腫瘍を作製し、片側のみにHF10を接種した実験では、ウイルス接種をしていない側の腫瘍の増大も有意に抑制された。これらの観察から腫瘍局所へのHF10接種により全身的な抗腫瘍免疫が誘導されている可能性が示唆された。2.腹膜播種モデルを用いたHF10の抗腫瘍作用の検討から、腹水が腹腔内に貯留するとHF10の作用が著しく減弱することが明らかになってきた。そのような腹水貯留型の腹膜播種癌に対する作用を高めるために化学療法剤パクリタキセルとの併用について検討した。それぞれ単独ではほとんど効果がない用量で、HF10/パクリタキセルの併用は有意に生存を延長することが明らかになった。また、HF10を感染細胞として腹腔内に投与する方法も腹水型腹膜播種癌に対して極めて有効であることが明らかになった。
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