我々はがんの治療を目的として、増殖型、弱毒化単純ヘルペスウイルス(HSV)の有効性、安全性を動物実験系で評価し、変異HSV-1HF10が優れた抗腫瘍性をもつことを報告してきた。また、再発性乳癌、頭頸部癌を対象にトランスレーショナルリサーチを行い、HF10が高い腫瘍細胞溶解性をもつことを示してきた。 本研究ではHF10のマウス悪性黒色腫モデルに対する全身性免疫誘導能について検討を行った。 DNA/2マウスの腹腔内にclone M3を接種した腹腔内腫瘍モデルでは、腫瘍形成後にHF10を腹腔内接種すると全例が生存する。その後マウス皮下に腫瘍細胞を再接種し、腫瘍形成の有無を経時的に観察した。その結果、マウスの治療後腫瘍細胞を再接種しても6匹中5匹で皮下腫瘍は形成されないことが判明した。また、マウスの両側背部に腫瘍細胞を接種し、片側のみにHF10を感染させ、感染側、非感染側の腫瘍の増大についても観察した。その結果、ウイルス接種をしていない側の腫瘍の増大も有意に抑制されることがわかった。さらに、皮下腫瘍モデル系で治療したマウスから摘出した脾臓を用い、皮下腫瘍モデルマウスに移入免疫し、腫瘍増大抑制効果について検討した。その結果、皮下腫瘍及び腹腔内腫瘍のモデルで腫瘍増大の抑制が認められることが判明した。 以上の結果から、HF10の腫瘍内投与による悪性黒色腫の治療により全身的な抗腫瘍免疫が誘導されている可能性が示された。
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