ヒト肝細胞がんで発現が亢進しているガンキリンは、Rb、Cdk4、Mdm2、プロテアソームのサブユニットS6b等とそれぞれ複合体を形成し、がん抑制蛋白質Rbやp53の分解促進、Ink4の阻害を引き起こす。本研究は、ガンキリンとMdm2との複合体の構造を基に、その結合を阻害することによりがん抑制蛋白質の機能を復活させる低分子薬物を設計し、がん治療薬として応用することを目的としている。本年度は、1.ガンキリン-Mdm2複合体の構造解析のために、Mdm2の全長あるいはガンキリン結合部位をガンキリンと同時に大腸菌に発現させ、精製した。共結晶化させてX線構造解析し、Mdm2との結合に重要なガンキリンのポケット構造を同定する予定である。研究協力者は、ガンキリンに結合する低分子阻害物質をde novo設計するためのソフトウエアをさらに改良している。2.リコンビナントMdm2蛋白質全長あるいは欠損変異体をゲル電気泳動し、ガンキリンをプローブとしてin vitroで両者の結合を解析する系を確立した。3.免疫組織染色により、肝細胞がんだけではなく、いろいろな臓器由来ヒトがん組織でもガンキリン蛋白質が高発現している例があり、開発する治療薬の対象となりうることを示した。4.肝細胞特異的にガンキリンを発現させるために、HBVのX蛋白質のプロモーターを用いてトランスジェニックマウスを作製したが、導入遺伝子の発現レベルが低かった。そこで別のプロモーターを用いて作製し、解析中である。抗ガンキリン薬の効果を調べる良い肝がんモデルとなることが期待される。
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