肝細胞がんで発現が亢進しているガンキリンは、Rbと結合しその分解を促進する。さらに、Mdm2に結合してそのユビキチンリガーゼ活性を増強することにより、p53の分解をも促進する。これら複数の重要ながん抑制蛋白質を阻害するという事実は、ガンキリンが肝がん治療薬の優れた標的であることを示唆している。そこで本研究では、ガンキリン抑制によるがん治療法の開発をめざした。 1.Mdm2のガンキリン結合部位をより短い範囲に絞込み、ガンキリンと共に結晶化を試みている。構造解析によりポケット構造がわかった場合、そこに結合して阻害する薬物をde novo設計するためのプログラムを改良した。2.ガンキリンがRelAにも直接結合し、Sirt1依存性に脱アセチル化を促進することでNF-kappaB活性を抑制することを見出した。肝発がんにおいてはNF-kappaBが発がん抑制に働くことが示されているので、ガンキリンが発がんを促進することになる。3.抗ガンキリンモノクローナル抗体を作成し、免疫組織化学的に肝がん症例での蛋白発現を解析した。その結果、ガンキリンが肝がんの早期で重要な働きをしていること、さらに、ガンキリンがIGFBP5の発現誘導を起こし、臨床例でも両者の発現が相関することを見出した。4.食道がん全例でガンキリンmRNAが高発現していること、RNAiによるその発現抑制で抗腫瘍効果が得られることを見出した。抗がんキリン薬の新たな対象である。5.RbがガンキリンとMdm2の複合体に結合することにより、後者によるp53のユビキチン化と分解を抑制しうることを示した。
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